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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和43年(ワ)240号 判決 1976年7月13日

昭和四三年(ワ)第二四〇号事件

原告並びに

同年(ワ)第五四九号事件

被告

原なみこ

右訴訟代理人

土井平一

昭和四三年(ワ)第二四〇号事件

被告並びに

同年(ワ)第五四九号事件

原告

加藤国子

右訴訟代理人

池田俊

外一名

昭和四三年(ワ)第五四九号事件

被告

姜南

右訴訟代理人

野沢涓

主文

一、昭和四三年(ワ)第二四〇号事件について

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二、昭和四三年(ワ)第五四九号事件について

(一)  被告原なみ子は原告に対し別紙物件目録記載の不動産につきなしたる神戸地方法務局西宮出張所昭和四二年一一月二七日受附第四〇六一九号、同年一一月二五日代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記に基き昭和四二年一二月二八日附代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二)  原告の被告姜南に対する訴はこれを却下する。

(三)  訴訟費用については原告と被告原なみことの間で生じたものはすべて被告原なみこの負担とし、原告と被告姜南との間で生じたものはすべて原告の負担とする。

事実

(昭和四三年(ワ)第二四〇号事件)

第一、当事者の申立

一、原告原なみこ

(一)  被告加藤国子は別紙物件目録記載の土地、建物につきなされた

1、神戸地方法務局西宮出張所昭和四二年一一月二七日受付第四〇六一八号根抵当権設定登記

2、前同第四〇六一九号所有権移転仮登記

3、前同第四〇六二〇号停止条件付賃貸借登記

4、前同出張所昭和四二年一二月二八日受付第四五八五八号所有権移転登記

につきそれぞれ抹消登記手続をせよ。

(二)  訴訟費用は前記被告の負担とする。

二、被告加藤国子

(一)  主文同旨の判決

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、原、被告間には別紙物件目録記載の物件(以下本件不動産と言う)につき原告を義務者、被告を権利者とする前記記載の各登記がなされている。

二、しかし右登記で表示される各契約は原告の意思に基いておらず無効である。

被告は右契約が原告の代理人である訴外高瀬昭文との間で適法に締結された旨主張しているが、原告は同訴外人に本件に関し代理権を授与した事実はない。すなわち

(一) 原告はかつて訴外高瀬に家屋建築を依頼し同家屋の保存登記手続のため同訴外人に関係書類及び印鑑等を交付したことがある。

その際は右手続完了後、右書類等の返還を受けたものの、昭和四二年八月項に至り、再び、同訴外人から登記の間違いを訂正する必要がある旨言われて前記書類を再度交付した。

(乙一号証)

(二) ところが同訴外人は右書類等を冒用し原告に無断で本件不動産につき訴外中川冨貴子に本件同種の登記をなし、続いて被告に前記記載の如き各登記をなしたものである。

三、以上の次第で前記各登記手続自体も原告に無断で前記訴外人らによりなされたものであるから、当然被告はこれを抹消すべき義務を負う。

(被告の答弁)

一、請求原因一記載の事実は認める。

二、同二、三の事実は争う。後記の通り本件契約並に各登記は原告の代理人である訴外高瀬昭文において原告を適法に代理してなしたもので何れも有効である。

(被告の反論)

一、前記二の事情を詳言すると以下の如くである。すなわち、被告の夫訴外加藤重一経営の訴外加藤精機株式会社は昭和四二年八月頃から訴外高瀬昭文経営の訴外株式会社光高工務店(以下単に光高と言う)に融資し、同年一一月頃には同融資額は七〇〇万円程となつていた。

二、ところがその頃、訴外高瀬は訴外中川冨貴子への返済金と運転資金等三〇〇万円の調達に窮し、前記訴外加藤精機に右融資方を申込んで来た。しかし同社としてはこれ以上の貸付は出来ないと言うことで、結局、被告が手形貸付で同額を前記高瀬に融通することとなり

三、被告において同訴外人に担保を求めたところ、同訴外人は昭和四二年一一月二五日頃、被告に対し原告が連帯保証人となり且つ本件不動産を担保として提供することを同意した旨告げて、代物弁済予約の記載ある根抵当権設定契約書(乙三号証)を持参し、原告の委任状、印鑑証明書、本件不動産の権利証を被告の代理人加藤重一に提示し、且つ訴外中川の本件不動産にかかる担保権の登記等一切を抹消するに必要な一切の書類を前記加藤重一(以下単に訴外加藤と言う)に交付した。

よつて同訴外加藤は原告の連帯保証と物上保証とが原告の意思に基くものと信じ、訴外高瀬に三〇〇万円を貸与し、訴外光高と訴外高瀬共同振出にかかる別紙手形目録記載の約束手形三通(乙四号証ないし同六号証)の交付を受け、又即日本件各登記(但し所有権移転の本登記を除く)を了したものである。

四、ところが前記光高は昭和四二年一二月二三日倒産し、前記高瀬は姿をかくした。

よつて被告は前記高瀬との間で手形割引、手形貸付契約を継続するのが不適当となつたと考え(乙三号証の一、根抵当権設定契約証書、第五条)昭和四二年一二月二七日、原告に対し内容証明郵便を以て「前記事情により被担保債権の履行期が到来したこと。従つて前記代物弁済予約に基き右予約完結の意思表示をなす」旨の通知をなし同書面は翌二八日、原告に到達した。

以上の次第で被告は同日、本件不動産の所有権を取得した。

五、又仮りに原告主張の通り原告が訴外高瀬に授与した代理権の種類が更正登記に関するもので、しかも同代理権も右登記終了によつてすでに消滅していたとしても、請求原因二記載の事実の如くであるとすると前記訴外高瀬の行為については民法一一二条、同一一〇条が重畳適用されることとなるので、結局、本人たる原告としては同訴外人による前記契約等の結果を否定し得ない。

すなわち原告は前記のとおり訴外高瀬に更正登記のための代理権を与え、しかもそのために自己の印鑑と権利証とを交付しており同高瀬は右更正登記後同印鑑等を冒用して前記連帯保証契約等をなしたと言うものであり、被告代理人訴外加藤としては前記高瀬から原告の印鑑証明書、委任状並びに本件不動産の権利証まで提示を受け原告から代理権を授与されている旨説明を受けたため、前記高瀬に原告の代理権ありと信じたものであるからである。

(昭和四三年(ワ)第五四九号事件)

第一、当事者の申立

一、原告加藤国子

(一)  被告原なみこにつき主文同旨の判決。

(二)  被告姜南は原告に対し本件不動産につきなされた

1、前記西宮出張所、昭和四二年一一月三〇日受付第四一一一二号、同月二七日代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記

2、前同第四一一一一号、前同日金銭消費貸借契約を原因とする抵当権設定登記

3、前同第四一一一三号、前同日設定の停止条件付賃借権設定仮登記

の各登記の抹消登記手続をせよ。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

二、被告原なみこ

(主たる申立)

(一) 原告の請求を却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(予備的申立)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

三、被告姜南

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、前記のとおり原告と被告代理人訴外高瀬間で昭和四二年一一月二五日、本件不動産につき代物弁済契約が締結され、又右の対抗方法として前記所有権移転請求権の仮登記がなされているところ、前叙の経緯により前記昭和四二年一二月二八日に予約完結権が行使されている

二、被告姜は本件不動産につき上記の各登記をなしているところ、何れも原告の前記仮登記後になされているものでこれに対抗し得ない。

(被告原の本案前の抗弁)

一、原告は本件不動産につきすでに昭和四二年一二月二八日受付の所有権移転登記を了しているので更に前記主張の如き本登記手続を求める利益はない。

(被告原の請求原因に対する答弁)

一、原告主張の登記がなされていることは認めるが前記のとおりその基本となる契約も同登記手続もすべて訴外高瀬が被告に無断で被告の代理人である旨称してなしたものであるから何れも無効である。

(被告姜の答弁)

一、請求原因一記載の事実は不知。

二、同二記載の事実中各登記のなされていることは認めるが、被告姜の登記が原告の仮登記に対抗出来ないとの点は争う。

(被告姜の反論)

一、被告姜は昭和四二年一一月二七日、訴外高瀬に昭和四二年一一月二七日、金六五〇万円を利息年一割五分、損害金年三割の約にて貸付け、被告原は同日、右債務を保証した。

二、ところで原告の前記代物弁済予約の性質はいわゆる清算型に属するところ本件不動産の時価は建物と共に評価して坪、二〇万円と評価されるので総面積五五坪では総額約一、一〇〇万円となる。一方原告の被告原に対する債権は三〇〇万円であるから、その差八〇〇万円を被告原なみこに返還すべきである。

(原告の前記本案前の抗弁に対する反論)

一、被告原主張の原告の本登記は被告姜の各登記に遅れるものであるから本件仮登記に基く本登記請求は充分の理由がある。

(原告の被告姜の主張に対する再反論)

一、同反論一記載の事実は不知。

二、同二記載の事実は争う。

(証拠関係)<省略>

理由

第一昭和四三年(ワ)第二四〇号事件について

一請求原因一記載の事実については当事者間に争いがない。そこで同二記載の事実並びに「被告の反論」につき以下判断することとする。

二<証拠>等を綜合すると、「被告加藤の反論」一ないし三に記載の事実が認められ、一応これによると訴外高瀬に本件に関し原告を代理する権限があつた事実がうかがわれる。

原告はこの点につきその本人尋問中において「請求原因二」の主張にそつた供述をなしているが同供述は以下の点に照し措信出来ない。すなわち、<証拠>は「原告が訴外高瀬に本件不動産の権利証を貸与したのは同訴外人から一寸、銀行に見せるため貸してくれと言われて貸した」旨証言しておりこの点、原告の「更正登記のため貸した」との本人尋問中での供述と食い違つていること(原告は右目的で、貸与した旨供述しつつ、しかもその更正の内容については知らない。又それ程高瀬を信用していたわけでもない旨供述しておりこの点も理解し難い)。

又<証拠>によると原告は昭和四二年一一月一五日、訴外高瀬から「本件不動産の権利証を翌四三年三月三一日まで借用する」旨の借用証を受取つていることが認められるところ、原告はこの点、その本人尋問中で知人の宮田から「他人に権利証を預けておくと自分の家でも売られてしまう」旨言われたので不安となり右借用証を作成させた旨供述しているが、若しそのような心配があつたのなら何故なお右のように四ケ月以上も貸与の継続を書面を以て認めたのか納得出来ないし、殊に<証拠>によると原告の更正登記(権利者「原なみ子」とあるを「原なみこ」と更正)は昭和四二年八月一八日すでに完了している事実も明らかであるので一層その点が首肯し難いこと。

又原告の「建物登記の更正登記のため、土地の権利証まで訴外高瀬に渡した」旨の供述部分も常識に反して理解し難いところである。

これら不合理と思われる諸点を前掲各証拠にあわせ考えると原告本人尋問の結果は代理権の存否に関し措信し得ないものと言うべく他に訴外高瀬に原告の代理権ありとの前記認定を覆えすに足りる証拠もない。(又仮りに代理権授与の事実がなく請求原因に記載の通りであつたとしても、同主張に前記認定の被告加藤の反論一ないし三の事実をあわせ考えると、原告は同反論四に記載の通りの責任を免れないと言うべきである)

三そうすると結局原告としては訴外高瀬のなした前記各契約並びに登記手続の結果を否定し得ないところであるから、原告の本訴請求は理由がなく棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

第二昭和四三年(ワ)第五四九号事件について

一被告原なみこは、「本案前の抗弁」記載の事実を主張して「訴の却下」を求めているが、<証拠>によると「原告の前記抗弁に対する反論」に記載の事実が認められ、これによると原告の本訴請求は充分権利保護の利益を有すると考えられる。

よつて被告のこの点に関する申立は理由がないので進んで本案につき判断することとする。

二ところで前件において認定の事実に徴すると、原告の被告原なみこに対する請求はすべて理由があるものと認められた。

よつて同被告に対する請求はこれを認容することとする。

三次に被告姜南に対する登記抹消の請求についてであるが、確かに本訴の如く、仮登記権利者が本登記をなし得る実体上の要件を具備した場合には、本登記義務者に対する同義務の履行を求める訴と併合の上であれば本登記につき登記上利害関係を有する第三者に対する抹消登記請求も認められる旨の判例も存在する。

しかし同判例によつても右問題が一切解決したわけではなくその後も矢張り論議の多かつたところであつて、不動産登記法一〇五条はかかる論議を立法的に一切解決せんとして制定せられたものであると考えられる。

そうすると同条の文言に照らしかかる場合、仮登記権利者としては前記利害関係人に対し、本登記申請への「承諾」を求める以上の方法は認められていないと言うべきである。

従つて原告の本訴抹消登記請求は以上理由により不適法として却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項但書を適用して主文のとおり判決する。 (弓木龍美)

<別紙物件目録、約束手形目録省略>

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